制限があると、アイデアが加速する(と、僕は思う)。
文章でもそうだ。文字数やページ数が決められていれば、そこに収めようと工夫する。
文章を書かせてくれるなら、まだよい。1文すら書けないケースもある。
単語や記号を繋いで何とか表現しなければならない世界、今日はその話。
街を巡っていると、いろいろな看板や案内板に出くわす。
それらは、限られたサイズの中で伝えたいことを表現しなくてはいけない。
「あぁ、がんばってるな、うん、がんばってる……」と感じるものもあれば、
「あぁ、がんばってるな、好き。」というものもある。
お気に入りを紹介しよう。
ある日、ガソリンスタンドで洗車をした。こんな案内板があった。
たった8文字で、言いたいことがきちんと伝わる。
でもきっと、ここにたどり着くまで、めちゃくちゃ悩んだんだろうなと思う。
この案内板を丁寧に文で書くならこうだろうか。
矢印が点滅したら洗車は終了ですので、洗車機から出てください
正直に言って、たぶん僕はこの文をあの案内板にできない。
短くはできる。
矢印が点滅したら出てください
矢印点滅で出てください
ここから先は、たぶん専門家の所業だ。考えた人を尊敬する。スゴイところを2つお伝えしたい。
スゴイところ①「退出」
地味な部分だが、順番的にまずこちらから。
元の文章(想像だが)の中で、一番短くするのが難しい部分は、「出てください」だろう。
「出ろ」とか「出よ」なら、思いつく。でも、高圧的であまり使いたくない。命に関係するような場面(踏切で左右確認を促す看板)など、強い口調が効果的なところでは実際にそういう表現が使われているが、単に洗車機から出るときに命令されたくはない。
だから「退出」にした、と思われる。
矢印点滅で退出
これなら威圧感がなく、単なる指示として受け取れる。
ここでスゴイのは、「出る」を「退出」と変換できたこと。
なぜなら、ふつう洗車機から「退出する」とは言わないのである。
Google先生もそう答えている。
「出る」→「退出」という発想は、いけそうでいけない気がする。
そこそこ悩んだのではなかろうか。
ぶっちゃけ、「洗車機から退出する」という表現、良くはない。Google先生が言っているように、ぜんぜん使われていない。だから、一般的な表現ではない。
僕が校正の仕事をしていて、文章中でこのフレーズを見つけたとすると、
「コロケーション(語と語のつながり)に違和感があります。 修正例:洗車機から出る」
とか書くかもしれない。
でも、今回は良い。伝わるから。文章と案内板では目的が違う。
さて、僕のような凡人ならここで試合終了。でも、この案内板の作者は違う。「してください」を表現したい! というわけだ。たしかに人によっては、矢印が点滅したら退出……がどうなの?と思うかもしれない。
そこで、スゴイとこ②だ。
スゴイところ②「GO」
作者は「してください」を「GO」と表現したのだ、エグい。
英語を使おうという発想もスゴイが、「GO」を選べるのもスゴイ。
英語を使うところまではたどり着けたとして、僕なら「OK」とかにしてしまいそう。
矢印点滅で退出OK
作者も、脳内で「OK」は経由したはず(たぶん)、でも却下した。
おそらく、「OK」には相手に判断をゆだねるニュアンスがあるから。つまり、出たくなければそこにいてもいいよ、という意味にもなってしまう。
だから、もっと強い「GO」とした。矢印が点滅したら「行け」というわけだ。
命令には違いないのだが、圧は感じない。むしろちょっとカッコイイ(僕だけかも)。
さあ、最後にもう一度、案内板を見てみよう。
矢印が点灯している。
そう、写真を撮っていたら洗車が終わってしまったのである。
みんなも気をつけようね。
– 終わり –
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