最近、校正の仕事をしていて、
株式会社〇〇は、〇月〇日より「商品名」を予約開始しました。
みたいな文に以下のようなコメントを入れた。
「予約開始」は言葉足らずです。
正しくは「予約受付開始」です。
修正例:
…の予約受付を開始しました。
納品済みなのだが、実は、自分のコメントに自信がなくなってきた…(おいっ)。
というのも、「予約開始」という言葉、フツーに使われている。使われまくっている。変だ!という指摘も見つからない。
でも、やっぱり変だと思うんだよなぁっていうことで、「予約開始」について考察する。
ポイントになるのは、たぶん「予約」という言葉の意味。
【予約】
あらかじめ約束すること。また、その約束。「部屋を―する」「—を取り消す」
広辞苑
予約の起点になるのは購入者(予約する側)だということが分かる。
つまり、「予約を開始」できるのは買う側だけである。
「よっしゃ、この商品予約するぜ」と言って予約サイトのフォームに情報を入力し始めることこそが、本当の「予約開始」というわけだ。
やはり、売る側が「予約開始」を使うのは変というか、言葉足らずである。
でも、使われまくっているし、言いたいことは分かる。
間違った表現が広まり、それが受け入れられているってこと?
ふと、あることを思いついた。
換喩なのかも。
換喩についてちゃんと勉強したことがなかったのだが、とてもいい記事を見つけた。
「やかんが沸騰した」。私たちはなんの疑問も抱かずに、そう口にするが、これは比喩表現だと気付いているだろうか。なぜなら、沸騰するのはやかんの中の水であり、やかん自体ではないからだ。「示したいもの」の代わりに、近くにある「別のもの」を利用して伝える比喩表現を「メトニミー(換喩)」という。
授業に潜入!おもしろ学問 「やかんが沸騰した」はなぜ伝わる?比喩から考える言葉の不思議 谷口一美 教授 – 京都大学広報誌『紅萠』 http://www.kyoto-u.ac.jp/kurenai/202103/gakumon/index.html
動作主体が逆転することがあるのか。ほげぇ。
結論
「予約できるようになります」という意味の「予約開始」、正しくは「予約受付開始」である。
ただし、メトニミー(換喩)の一種と考えれば、間違いとは言い切れないのかもしれない。
実際、「予約開始」という文言を見て意味を誤解する人は皆無であろう。日常会話、SNSの投稿、小説などで使う分には、問題が発生することはなさそうである。
ただし、情報を正確に伝達することが求められる場面では、そもそも比喩表現を避けるのがよいとされている。
特にこだわりがなければ、丁寧に記述した方が安全だ。
以上。
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